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DSC_6173-1.jpg産経新聞「正論」欄論文発表後の追記(2012.2.28)

「老兵ハ死ナズ タダ消エユクノミ」
(Old soldiers never die, they just fade away)

この言葉は、マッカーサー元帥が米上院で退役挨拶をしたとき引用した、米国陸軍士官学校ウエスト・ポインターズたちの口ずさむ古い歌だときく。
一時、日本でも流行したこの歌の2番の歌詞は、意外に知られていない。

それはこうだ。

Young soldiers wish they would,
wish they would, wish they would,
Young soldiers wish they would,
wish they would fade away.

これが世界共通の新旧世代交代の真実だ。

私が昨年、海外の友人たちに宛てたクリスマスカードの一言は、「老兵は死なず」だったが、古い戦友たちから、「オレもそうだぞ」という返信が何通かあった。

テレビや雑誌で何か意見を言うと、大半は「よくいった!!」という激励なのだが、何通か必ず「老害だ、年寄りはひっこめ」という「早く消えろ 老兵め」という上記の歌詞のようなメールがくるものである。

だが、私の2月24日付産経新聞「正論」欄に寄稿した論文に対し、橋下徹大阪市長は、彼のツイッター上で素早く、適確に、認めるべきことは素直に認める意見を発表していた。
朝刊で読んで、午後1時過ぎには140文字ずつ数回にわけてコメントされたそれは、誠実で、礼儀正しいものだった。

橋下市長の所論については、彼のツイッターをお読みいただきたくとして、驚嘆すべき知的反射神経で、この戦闘機の敵味方識別装置は優秀だ。

我々“軍国少年”の昭和一桁組のオピニオン・リーダーたちは、心身共に疲労困憊し、リリーフ投手の出場を待ち侘びている。
〝全共闘世代や団塊世代〟には、後継者がいないからだ。

そのような中で、橋下市長は待望の救援投手である。
球は粗いが剛速球で、確かに勇気がある。

これまで誰もが恐れてタブーとなっていた部落解放同盟、大阪市役所、教育問題について、「人触レレバ人ヲ斬リ、馬触レレバ馬ヲ斬リ」と、私の若かった頃に似た闘士ぶり。
その姿に、私は38歳で東大安田講堂、41歳であさま山荘に突入した闘争の日々を思い出した。

憲法9条と国民投票についての意見には、私も賛成。
いま、この42歳の青年政治家も「ヘラクレスの選択」をしている。
私は期待したい。

そして、警察はこの若き政治家の身辺警護に万全を期さなくてはならない。

湾岸戦争の際、多国籍軍の補給軍司令官だったウィリアム・ガス・パゴニス中将の名著「山・動く」(拙訳、同文書院)の一文を、橋下市長に贈る。

アンドリュー・カーネーギーの墓碑銘
「自ラヨリ賢キ者ヲ近ヅケル術知リタル者 ココニ眠ル」
(Here lies one who knew how to get around him men who were cleverer than himself.)

人のいうことに耳を傾けることは、優れたリーダーの証しの一つだ。

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【正論】初代内閣安全保障室長・佐々淳行 「維新」の「船中八策」に異議あり
(2012.2.24産経新聞掲載)

一昨年のNHK大河ドラマで知れ渡った坂本龍馬の「船中八策」が、1月29日の橋下徹大阪市長の記者会見で救国の国是、国家構造として話題沸騰となった。

日頃から橋下氏の高い志、強い指導力、勇気、行動力を評価し坂本龍馬の遺志を継ぐ救国の英雄になるかとひそかに期待していた私は、「大阪維新の会」が来るべき国政進出に向けて2月13日に公表した「船中八策」なるマニフェスト(政権公約)を読んで失望した。


《民主党のマニフェストと同じ》

一番肝心の安全保障・防衛・外交がそっくり抜け落ちていて、これではウソ八百の民主党のマニフェストと同じではないか。

これでは泉下の龍馬が哭(な)く。
3千人余の「政治塾」の入塾希望者をみて、定員400人を2500人という軽佻(けいちょう)な執行部の舞い上がりぶりも、日本新党や松下政経塾、民主党の過去の失敗例を知る私は、商都大阪らしい資金集めの発想を感じ、志の低い上昇志向の議員病患者たちの犇(ひし)めきでなければ、と不快だった。

橋下氏は、忙しすぎてこの八策を熟読推敲(すいこう)していないのだろうか? 

一貫した政治哲学、理想の国家観、国政の基本任務である「国防」「海防」「テロ、大災害、広域犯罪などに対する治安・防衛・外交」、すなわちドイツの国家学者フェルディナンド・ラッサールの説く「夜警国家論」の護民官精神が欠けている。
それでは、なぜ、一昨年、坂本龍馬が大ブームとなり、そして今、「船中八策」なのだろう?


《龍馬旋風の裏に幕末級の危機》

天才坂本龍馬は、日本が列強の植民地に堕する危機を先覚して維新を説き、土佐藩主山内容堂に「船中八策」を提して「大政奉還」「天皇親政」「憲法制定」「国会創設」「不平等条約改定」「海軍の増強」を命を賭して建白した。事実、彼はその5カ月後の慶応3年11月、凶刃に倒れた。

6カ国協議構成国の首脳交代、普天間問題以来の日米関係冷却、北朝鮮での金正恩氏の世襲と核武装、ノドンの脅威、中国の「核心的利益」と広言し始めた尖閣諸島への領土的野心など軍事的、外交的危機を実感した国民が今、政治に求めていることは、国家の安全と国民の安心、孫の代に他国の属国にならないことである。

賢明な日本国民は、今が幕末によく似た日本国家存亡の危機であることを知って、救国の英雄待望論から一昨年の龍馬ブームを起こし、「船中八策」となったのだ。

だが、橋下ブームは日本国民の不安の反射的利益にすぎない。

国民の龍馬ブームは、「日本と、日本の国民を守ってほしい」という国家安全保障政策への期待であって、地域政党として急成長した「維新の会」の古代ギリシャの古典的な「大都市連合」でもなければ、「大阪都」実現でもない。

また、龍馬の「船中八策」は、「中央集権・富国強兵」の愛国心の発露で命がけの提言だったが、「維新の会」のそれは「地方分権・地域主権」の提言であって、方向性は真逆なのだ。

今時、政策提言に命をかけている政治家はいないから人を動かす気迫がない。

「船中八策」は、国民的国家安全保障の諸施策の明確な大方向を、急ぎ再検討して修正しないと、「維新の会」は国政に参加できても、いずれ日本新党、民主党の二の舞い、三の舞いとなってしまい、到底、救国の保守第三極にはなれない。

そして、国家安全保障の問題を避けるならば、それは「坂本龍馬の船中八策」の呼称を冠するに値しない。

むしろ、この際、橋下徹という100年に1人の政治家にカリスマ性を与えるための、「橋下の船中三十六策」でも「七十二策」でも、そのオリジナリティーを日本政治史に残した方がいいと思う。


《国家安全保障の諸政策加えよ》
橋下徹大阪市長に申す。国家安全保障問題、国家危機管理の問題こそが国民の龍馬ブームの源であり、物事を勇気を以て改めてくれる強い指導力を貴方に期待している国民の声なのだ。

国政を担わないのなら、今の八策でもいいが、命をかけて、先送りされ続けた国家安全保障の諸問題を、貴方の「船中八策」に加え、国策の大変更を含めて平成の日本の国家像を示してほしい。

紙数に限りがあるため詳細は別稿に譲ることとし、私の注文を粗々しく列挙する。

国家百年の大計として、
(1)天皇制の護持、皇室典範の改正、絶家必至の各宮家と旧宮家男系相続人の養子縁組を認め、男性皇族の減少という危機を回避する
(2)日米安保条約を「百年同盟」とし、集団的自衛権の行使を首相が宣言し、日米対等となる
(3)中国にはトウ小平の「尖閣問題棚上げ論」に戻すことを提案、尖閣諸島は日本にとっても「核心的利益」で譲れないと宣言する
(4)このほか、「憲法9条改正」「自衛隊の国軍昇格」「国連改革(憲法に国連のコの字もなし)」「民主党2人の首相の誤れる国際公約の撤回」「食糧・エネルギー安保」「領域警備法制定」-など橋下市長の勇気ある決断を祈っている。


※ホームページへの転載にあたっては、新聞掲載の記事に新たに改行等を加えてあります。
本文のタイトルも、新聞に掲載されたものです。

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